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福岡高等裁判所 昭和44年(く)32号 決定 1969年7月12日

被疑者 前田利明

福岡地方裁判所昭和四四年(む)第五二八号忌避申立事件について、昭和四四年六月三〇日福岡地方裁判所がなした各申立を却下する旨の決定に対し被疑者及びその弁護人国府敏男、同上田正博から適法な即時抗告の申立があったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原決定を取り消す。

本件を福岡地方裁判所に差し戻す。

理由

本件即時抗告の理由は、記録に編綴の被疑者及びその弁護人国府敏男、同上田正博連名提出の即時抗告申立書に記載のとおりであるから、これを引用する。

まず職権によって調査するに、記録に徴すれば、昭和四四年六月二三日、被疑者及びその弁護人国府敏男、同上田正博から福岡地方裁判所昭和四四年(つ)第一号特別公務員暴行陵虐等付審判請求事件について、裁判長裁判官真庭春夫、裁判官白井博文はいずれも同裁判所昭和四三年(わ)第七一号被告人福田政夫に対する公務執行妨害被告事件の無罪判決に関与し、右付審判請求事件の重要部分につき実質的審理をし、被疑者に対しきわめて不利な事実を認定し、警察の警備目的に対していわれのない予断を抱いていることが明らかであるから、刑事訴訟法第二〇条第七号の前審関与の除斥事由がある場合にひとしく、かつ同法第二一条第一項後段の不公平な裁判をするおそれがあるとして、右裁判官らを忌避する旨の申立がなされたことが明らかである。

しかるに、裁判長裁判官真庭春夫、裁判官綱脇和久、裁判官白井博文の構成する福岡地方裁判所第三刑事部は、刑事訴訟法第二一条によれば、刑事被告事件において検察官、被告人及び弁護人は裁判官を忌避することができるが、被疑者及びその弁護人について忌避申立権を認めた規定はないから、付審判請求事件の被疑者及びその弁護人には忌避申立権はなく、本件各申立は不適法であるとして、同法第二四条第一項を準用して右各申立を却下したことが認められる。

ところで、右忌避申立は福岡地方裁判所の合議体の構成員である裁判長裁判官真庭春夫、裁判官白井博文に対してなされたものであるが、そもそも地方裁判所の合議体の構成員である裁判官が忌避されたときは、その地方裁判所の合議体で決定をしなければならず(刑事訴訟法第二三条第一項参照)、しかも忌避された裁判官は右決定に関与することができない(同条第三項参照)のであって、ただ同法第二四条第一項によって、訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな忌避の申立や、同法第二二条(事件について請求又は陳述した後の忌避申立禁止)の規定に違反し、又は裁判所の規則(刑事訴訟規則第九条参照)で定める手続に違反してされた忌避の申立を却下する場合においては、同法第二三条第三項の規定を適用しない旨定められているに過ぎないのである。

しかして、忌避申立権がないことを理由として忌避の申立を却下する場合が刑事訴訟法第二四条第一項所定の場合に該当しないことは文理上まことに明白なところであるのみならず、右条項は前記のような特別の場合に限って本来関与することを許されない忌避された裁判官がその忌避申立の裁判に関与し得る旨を定めた忌避申立の裁判についての例外的規定であるから、みだりにこれを拡張して解釈しあるいはこれをたやすく準用することは許されないものと解すべきである。

してみれば、本件忌避申立に対する決定に忌避された裁判長裁判官真庭春夫、裁判官白井博文が関与したことは、明らかに刑事訴訟法第二三条第三項に違反したものというべきであるから、原決定は取り消しを免れない。

そこで、本件即時抗告の理由についての判断を省略し、刑事訴訟法第四二六条第二項に則り原決定を取り消したうえ、本件を福岡地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡林次郎 裁判官 山本茂 裁判官 池田良兼)

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